2019 表紙と感想


冊数
書 籍 名
感  想


約1年ぶり、ようやくシリーズ8巻めが出ました。今回は、かかしの姿をした農業の神であり知恵の神でもある久延毘古命(くえびこのみこと)が力が弱まり引退したいとの願い事をするというチョットいい話と、神様になった狸、金長大明神が、たくさんある狸合戦の話を集めてほしいとお願いする、狸と人間の心温まる話。そして顔がなくなってしまい、描いてくれるよう依頼する八幡大神の切なくしんみりとしたいい話、の3部作です。神様の願い事を引き受ける御用人を通して、人と神様のあり方、関わりが、しんみりとしたなかにもユーモアを交えて表現されており、とても楽しく読むことができました。







本屋で何気なく目に留まり、落語に触れてみたいと思って購入しました。古典落語のあらすじが簡潔にまとめられていて、「火焔太鼓」や「粗忽の釘」など、題名は聞いたことがあるけれど内容は知らなかった落語など、たくさんの落語のストーリーと落ちを知ることができました。でも、落語家の表現や喋りまでは感じ取ることはできませんので、やっぱり落語は生で聞いてこそではないかと思います。生でなくても、DVDでもいいので、そのうち鑑賞してみようかなと思いました。









 刑事、加賀恭一郎の失踪した母が仙台で亡くなった。恭一郎の母が働いていたバーのママから恭一郎に連絡がはいる。一方で、都内の古いアパートで女性が殺されているのが見つかる。殺された女性は、有名な舞台女優の幼馴染である同級生。殺された部屋の住人は全く関係ない男性で行方不明となっている。部屋には日本橋近辺の12の橋の名前が書き込まれたカレンダーが残されていた。まったくつながりのない二つの事件が日本橋の橋の名前でつながっていく。そして舞台女優の過酷な生い立ち、そこから少しづつ謎が解かれていく。恭一郎の住所を教えた謎の男性は誰なのか、アパートから消えた男性はどこに行ったのか、カレンダーに書かれた12の橋の名前は何を示しているのか。加賀恭一郎の鋭い推理、想像を超えた結末、さすが東野作品は面白いです。







 2年半ぶりの再読です。以前読んだ頃は、ラウンド回数が増えてきて、ゴルフのスコアアップをめざし、まじめにフォーム改造を始めた頃でした。あの頃から、スコアはほんの少ししかよくなっておらず、すなわちあまり上達してないということです。改めて読み直してみて、前回に比べて、書いてある内容がなるほどと思えるものがたくさんありました。なぜ曲がる、なぜダフル、なぜトップル、などなど。パターの物理的なアプローチ(分析)は面白かったです。この本をもう一度読んだ目的は、改めてもう一度スコアアップを目指そうと思ったから、今度こそスコアアップを目指して。






 古事記の内容がうる覚えでモヤモヤ感があったため思わず購入してしまいました。学問的な難しい話ではなく、雑学的な説明になっているため読みやすかったです。古事記に記された神話の世界の神々について改めて確認することができました。天上界、高天原に最初に現れた神は、「天之御中主神(あめのみなかのぬしのかみ)、続いて「高御産巣日神(たかみむすひのかみ)」、「神産巣日神(かみむすひのかみ)」、こを造化三神という、から始まって、「別天神(ことあまつかみ)」、「神世七代」など、など。さらには、神社の由来や、歴史的背景なども記載されていて、モヤモヤ感がすこしすっきりしました。








 リバースとは時を遡ることを意味します。決して嘔吐することではありません。大学時代、ゼミ仲間で信州の山奥へ旅行に行った際に、遅れてくる仲間を近くの駅へ車で迎えに行った別の中間(広沢)が事故で亡くなってしまう。そんな過去を持つ深瀬和久。喫茶店で知り合った恋人のもとに「深瀬和久は人殺しだ」という手紙が届けられる。他のゼミ仲間にも同じような嫌がらせがおこる。誰が何のために、深瀬が犯人捜しをすることになる。亡くなった広沢の思い出文集を作成することを口実に広沢と関係のあった人たちとの出会いが始まる。知らかった広沢本人の人となりが明らかになっていくが、様々な人間模様も語られる。そして、徐々に犯人に近づいていくが、思わぬところに思わぬ結末が待っている。最後の最後、これからどうするのだろうという投げかけで終わっている。






 2015年にシリーズ1作目を読んで以来3年ぶりの2作目です。1作目の内容はおぼろげに覚えているだけでしたが、2作目を読み進むうちに少し思い出してきました。自らを魔法使いと名乗る古書店「止まり木」の店主亜門。そしてそこで働くことになった名取司。止まり木には本や人と「縁」を失くしただけが訪れます。今回は、亜門の古木からの友人というコバルトが登場、亜門と同様、魔法使いを名乗り、司をお茶会に招待し、不思議の国のアリスの世界を再現させます。また、「止まり木」があるビルにある他の本屋さんで働いている、絵本作家を目指す店員のお話、私はオズのは法使いは読んだことはなかったのですが、この物語を絡めたほのぼのいい話が収められています。店主亜門と司の微妙な関係、そこにコバルトが加わり、独特の世界が心地よく感じられます。







 シリーズ本、連続で読んでしまいました。「縁7」を無くした人だけが訪れることができる不思議な古書店「止まり木」のマスター、魔法使いと名乗る亜門、その使用人である普通の人間の名取司、そして亜門の古くからの友人で、同じく魔法使いらしいビジュアル系男子のコバルト。3人の奇妙な物語に、今回のシリーズには、新キャラクター、アザリアと風音が登場する。亜門たちは悪魔の分類にに属するらしいが、新キャラは天使や神様に属するようで、すなはち、亜門たちとは敵対する立場にあり必然的に、壮絶な戦いが行われるが、その後は和解して共存していくようになる。この新キャラの登場により、亜門たちの過去がさらに明かされていくことになる。こうした幻想社会の中で、人間名取司はどんな生き方をしていくのか、まだまだ謎を秘めた亜門の過去はどんなものだったのか、次のシリーズが楽しみです。






 東野圭吾の初期作品、「放課後」、「卒業」などの学園シリーズの一冊です。冒頭(序章)、主人公である修文館高校野球部主将、西原荘一の、心臓に疾患を持った妹の生い立ちが語られます。このくだりが、物語にどう関わってくるのかと思いながら読み進めていきましたが、ストーリーの展開に夢中になり忘れかけていた頃に明らかになります。 ストーリーは、野球部の女子マネージャー宮前由希子が交通事故で亡くなるところから始まります。しかも、西原壮一の子供を身ごもっていました。不可解な事故に壮一は自ら父親であることを名乗り、事故の真相を探り始めます。すると、事故現場には、生徒指導担当の女性教師、御崎藤江がいたことが判明します。ところが、御崎藤江は教室で絞殺されてしまいます。由希子の事故の真相、女性教師を殺害した犯人は誰なのか、大変読み応えがありました。最後の一行に題名である「同級生」についての落ちがあります。




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 名探偵、加賀恭一郎が、殺人あるいは殺人未遂事件を鋭い洞察力で犯人を追い詰めていく5つの短編集です。第一話、現在は演出家で元プリマバレリーナの犯した罪を暴いていく、本の題名にもなっている「嘘をもうひとつだけ」。第2話「冷たい灼熱」、帰宅すると妻が殺され、息子が行方不明に。誘拐されたのだろうか、結末は悲しく切ないものでした。第三話「第二の希望」、娘に体操選手としてオリンピックに出場する夢を託す母親。ある日、離婚した母親の恋人が自宅で殺されていた、犯人は誰か、動機は、悲しい親子の物語。第4話「狂った計算」横暴な夫を殺そうとする妻とその愛人、名探偵加賀恭一郎も間違うほどの偶然が。第4話「友の助言」、加賀恭一郎の友人が居眠り運転で事故を起こし重症を負う。居眠り運転などするやつではない。友人として捜査を行っていく、その結末は・・・。




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 勝てば官軍、まさにそのものの内容でした。維新の英雄たちの知られざる痴態や、歴史の陰に隠れた英雄たちの偉業など、目からうろこの話が盛り沢山で面白かったです。大政奉還をした慶喜の思惑、江戸城無血開城を導いた、西郷隆盛と勝海舟の会談は既定路線であったなど、維新のスターたちに心酔されている方にとっては若干気分を害する内容かもしれません。幕府の役人にも優秀な人材が多数いて、決して近代化に対して疎いわけではなかったし、保守的でもなかったようです。特に、ペリーと交渉にあたった幕府の役人の話などは歴史の教科書には出てきませんが、優秀な人たちだったようです。また、我々は、歴史を結果として後から見ているため、当たり前のように思ってしまいますが、その時、歴史の中にいた人たちにとってはどちらに転ぶかわからない先の見通せない時代であったと思います。





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 最初に読んだ原田マハさんの作品「本日はお日柄もよく」、そのストーリーにも感動しましたが、この人の文章力はすごいと思いました。そして、「マグダラ屋のマリア」これにも感動しました。そして今回の「ロマンシェ」、「ロマンシェ」とはフランス語で「小説家」という意味です。主人公の乙女チックな美智之輔はアーティスト志望の学生、フランスへの留学の切符を手に入れ、パリでのドタバタ劇が始まります。そのストーリーも面白かったのですが、何より、物語の舞台となったパリのリトグラフ工房「idem」、実在する工房なのだそうですが、小説の最後に東京ステーションギャラリーで「idemの展覧会」が開催されることになります。ところが、なんとこの展覧会をこの本の出版に合わせて実際に開催してしまったというのですから驚きです。この企画力、行動力は何たることやら。原田マハ、恐るべし。




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 練馬から日本橋警察署に転勤してきた名探偵加賀恭一郎、ここでも敏腕ぶりを発揮します。小伝馬町で一人暮らしをしていた女性が絞殺されその犯人を追い詰めていくというストーリー。しかし、話の内容は日本橋界隈にあるいろいろなお店、煎餅屋や料亭、瀬戸物屋から時計屋、さらに洋菓子屋などなど、これらの商店を通じての人情話の短編集といった感じで進んでいきます。そしてそれらの物語が最後につながり、犯人が判明しますが、判明してなお人情話がつづき、最後に話を引き締めてくれます。とても練られたストーリーで、相変わらず東野作品には引き付けられてしまいます。




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 最後のトリック、それは究極のトリックという意味です。ミステリーにおける究極のトリックとはどういうことか、それは読者が殺人犯になるということ。読者が殺人犯になるとはどういうことなのか、どうすれば読者が殺人犯になるのでしょうか。物語は違和感なく普通に進んでいきますが、中盤でおやっと思うようになり、最後には、確かに読者が殺人犯だと思えます。若干無理があるような気がしないでもないですが、読者が犯人であることは間違いありません。キーになるのは文中にも出てくる超心理学です。





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 第7巻で完結と思っていたのですが、いつの間にか新刊が発売されており、思わず購入してしまいました。その後栞子さんと五浦が結婚し、なんと娘が生まれ、名前が扉子、6歳になっています。母親似であろうことは想像通り期待を裏切りませんでした。
 物語は、五浦が青いカバーの本をどこかに置き忘れてしまったので探しておいて欲しいと、出張先から連絡してくるところから始まります。そして、栞子さん母娘でその本を探しながら、栞子さんが娘に昔の思い出を語って聞かせるという形で進んでいきます。今回も古書にまつわる人間模様が、ミステリータッチで描かれ、6歳の娘に聞かせる話としてどうなのかなとの疑問は抱きつつも、3つの物語それぞれ趣深い話になっています。このビブリアシリーズは、表題に「事件手帖」とあるように、古書にまつわる事件がつづられています。また、当初は何とも思わなかったのですが、この本を読んで、五浦目線で書かれていることに気が付いたのですが、その辺の理由が最後の解き明かされており、少しすっきりしました。




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 著者は、テレビの「世にも奇妙な物語」のファンだそうで、それを意識して書いた物語が5編。第一話は女性フリーライターが、男女二人づつが暮らすシェアハウスを取材し記事にしようとする。住人のどこか奇妙な生活。女性記者はひとりの女性とりと入れ替わることになるが・・・。何のためのシェアハウスなのか、最後はゾクッときます。第二話は、「コミュニケーション促進法」が制定され、「リア充裁判」なるものが行われる。確かに奇妙である。第三話は、幼稚園に努める男性教諭の、同僚教諭、父母たちとの奇妙な関わり合い、何が正しいのだろうかと考えてしまう。第四話は、SNSでネットユーザー向けに記事を書く女性記者の話。女性記者は結婚しており、小学2年生の子供がいる。子供の授業参観日、とんでもないことに。最後の第五話は、脇役俳優ばかりを集め、その中からあたしい映画の主役を選ぶというオーディションの話。やはり何とも奇妙な話でした。





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 都内で連続殺人事件が発生する。被害者の所持していた数字の暗号から、警察は犯人が次の殺人を高級ホテルで行うと予告していることに気づく。警察はホテルに入り込み、ホテルマンに扮装しての張り込みが始まる。いつ事件が起こるかわからない中、ホテルでは様々なお客様とのトラブルが発生しており、警察は振り回されることに。ホテルマンに扮した刑事と優秀な女性フロントクラークのかかわりが心地よい。日常のホテル業務の中で犯人と警察の知恵比べが始まる。犯人は何者で、ホテルで誰をどのように殺害しようとしているのか、個性あふれる登場人物、想像を超えた展開に思わず引き込まれてしまいました。ちなみに、「マスカレード」は、仮面とかなりすまし、という意味です。




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 以前読んだはずの本なのですが、あまり内容を覚えていませんでした。慶喜とはどういう人物であったのか、司馬遼太郎もつかみきれないところがあったのではないでしょうか。慶喜は、幼少から壮麗といわれ、日本国をどうにかしなくてはと考えていた先進的な大名人たちに担ぎあげられてしまった感がありますが、ある意味で期待にたがわない優秀な人物であったようでもあります。徳川を背負った将軍として、元々なりたいと思っていなかったようですが、結果的には徳川家を、そして江戸時代を見事に締めくくったのではないかと思います。歴史的には、大政奉還の実行、鳥羽伏見の戦いでの敵前逃亡など、当時の武士道としてはとんでもないことを行っていますが、短絡的に思えるその決断の裏にはどんな思いがあったのか、我々には計り知れない思いがあったかもしれません。それが慶喜という人物であろうとも思います。結局慶喜は大正時代まで生存し、77歳で永眠したそうです。維新の立役者は徳川慶喜、という人もいるそうですが、確かに維新の激動に翻弄され、影響を与えた一人ではあると思います。それにしても、維新のころは、いわゆる志士といわれる人たちの思いが強い故か、思い違い、勘違い、想像でもって行動を起こすことが多く、そのために歴史が分かりにくくなっているように感じました。逆に言えば、そうした人の思い込みによる行動も理解したうえで歴史を見ないと事実を見失うとも思いました。

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 ハーバード大学教授、ロバート・ラングドンの教え子であり、数々のIT関連の発明を成し遂げている天才エドモンド・カーシュが、人類の最大の謎である「人類はどこからきてどこへ向かうのか」を解き明かす大発見をし、その内容を世界に発表しようとする。しかし、その内容は、宗教界に対する影響があまりにも大きく、カーシュは発表に先立ち、三大宗教の中心人物三人にその内容を事前に知らせていた。そして周到に準備されていた発表の会場で、まさに発表しようとする直前に殺されてしまう。その発表会場に招待されていたラングドン教授は、事件に巻き込まれるとともにカーシュが何を発見し何を発表しようとしたのか、カーシュを殺害したのが誰なのか、という謎に挑むことになる。スペインを舞台とした、スペイン王家、宗教界を相手取ったドタバタ劇がこれから始まる。



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 ラングドンは、カーシュの発表の進行役であり会場の博物館の館長でもあり、そして次期スペイン国王フリアン皇子の婚約者でもあるアンブラ・ビダルとともに、殺されたカーシュの意思を継ぐべく逃走、47文字の暗号を探すためカーシュの自宅、そしてあの有名なサグラダファミリア教会に向かう。カーシュ殺害の実行犯は元海軍提督のルイス・アビラ。第2巻は、事件に登場する人物の背景が多く語られている。キリスト教会、スペイン王家、ネット界、そして実行犯であるアビラが殺害を犯すに至る経緯など。少しづつ事件の背景などが見えてくるが、真相は謎のままである。ラングドンはサグラダファミリアで47文字の暗号を突き止めるが、そこにアビラが現れる。カーシュ殺害の黒幕は誰なのか、はたまたカーシュの大発見を明らかにすることができるのか、第3巻に続く。



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 ラングドン教授の決死の努力により、カーシュが行おうとしていたプレゼンテーションがインターネットを通じて全世界に公開される、それは、人はどこから来て、どこへ向かうのかの答えであるが、重要なのは、どこへ向かうのか、の方でした。宗教界だけでなく、人類を揺るがす大発見、確かにそうかもしれません。ただ、読者それぞれの感じ方があると思いますので、興味ある方は一読を。さて、カーシュを殺害した黒幕は誰だったのか、スペインキリスト教会、スペイン国王親子の関わりなど、そのなぞはカーシュの作った、発表会のホスト役を務めた、コンピューターであるウィンストン握っています。
ダンブラウンの作品、ダビンチ・コードをはじめ、すべて読んできましたが、どれも面白くスリリングなものばかり、今回のオリジンもとても面白く、ほぼ一気読みの状態でした。全文を読み終えて、実によく調べられ、幅広い分野についての情報が盛り込まれており圧倒されました。宗教界の人類の創生から歴史や思想、ガウディの芸術から現代美術まで、そしてダーウィンの進化論から宇宙論に至るまでの科学の世界などなど。そのミステリーさとスリリングさが相まってとても読みごたえがありました。



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 麒麟とは五街道の起点である「日本橋」にある麒麟像のこと。日本橋が木造から石造りに建て替えられた際設置されたそうです。元々麒麟には翼はないのだそうですが、街道の起点から日本中にはばたくということで翼を付けたのだそうです。さて、物語の方は、この麒麟像のそばで胸をナイフで刺されるという殺人事件が発生する。そして、その直後、被害者のカバンと財布を持った男が交通事故で重体となり、やがてなくなってしまう。この男が犯人なのか、加賀恭一郎が真実を解き明かしていく。物語の中で、私も参拝した日本橋七福神、親会社がある甘酒横丁、浜町緑道と弁慶像など、身近な場所が題材となっておりとても親しみやすく感じました。また、派遣切りや労働災害なども、職業柄他人事とは思えませんでした。ストーリーは、やはり思いもよらない結末になっていきますが、考えさせられる内容でもあります。後半、麒麟像が重要なカギを握っていることが明らかになり、題目の理由にも納得がいきました。映画にもなっていたということで、鑑賞してみたくもなりました。



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 原田マハさんてどんな人なんだろう?そんな思いでこの本を手に取りました。そんな思いにしっかり答えてくれる本でした。マハさん、旅行好きで、その相棒がいます。大学時代の同窓生、御八屋千鈴さん。前半は作家になる前からの旅日記が中心で、千鈴さんとの旅が多く語られ、後半は作品制作のための調査旅行の色合いが濃くなっています。巻末の注釈にも、「フーテンのマハ」、「小説スバル」2009年10月号〜2010年12月号、「帰ってきたフーテンのマハ」2015年6月号から2016年12月号、とあります。旅の内容は面白おかしくもあり、間に語られるマハさんの生い立ちや思い、心情、そしてこれまでに執筆した作品の背景や、題材にしたゴッホ、ピカソ、モネなどの画家たちへの思いなど、とても興味深く良くことができました。私は、マハさんの代表作群である画家たちの物語は読んでいませんでしたが、是非読んでみたいと思いました。既に読んだ方でも、どうしてこうした作品が出来上がったのかなども少し理解することができると思います。そして、原田マハという人間がどうやって形成されたのかも何となく分かりました。元々持って生まれた才能に、家庭環境、特に父親の影響を大きく受け、作家原田マハが形成されたのだなと思いました。原田マハファン必読の一冊です。



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 天才物理学者ガリレオ先生こと湯川教授。そのガリレオ先生の大学時代の旧友であり、湯川教授も認める数学の天才石神、現在は数学の教師をしている。そんな石神のアパートの隣室で殺人が起きる。離婚した亭主がお金をせびりに元妻のところへ現れ、はずみで娘とともに殺してしまう。隣人の女性に好意を持っていた石神は、この母子の殺人隠ぺいに、数学者としての頭脳を駆使し論理的にアリバイを築き上げ、警察からの追及をかわす。この事件の捜査に当たった刑事もまた湯川の大学時の同級生草薙刑事。湯川は、草薙から事件の概要を聞き、石神と再会し、事件の真相を解き明かしていくことになる。石神の仕掛けたトリックは、何となくこんなもんかなと考えていましたが、全く想像以上のものでした。天才数学者の仕掛けたトリックは論理的に組み立てられ、暴きようのないものした。しかしそれを崩したのは論理を超えた人間の良心でした。そこには天才数学者の何とも言えない切なさがありました。



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 古代史に興味を持つと、古事記・日本書紀の神話の世界と史実との関係について不思議に思えてくることがたくさんあります。邪馬台国はどこにあったのか、天照大神は卑弥呼のことではないのか。なぜ天子ではなく天孫降臨で、しかも九州の高千穂なのか。神武天皇はなぜ日向からで、その本当の目的は何だったのか。出雲の国譲り伝説の実態は侵略らしいことは想像がつくが、なぜ全国に出雲系の神々の神社が存在するのか。神功皇后伝説とは何なのか。全国八幡神社の総本山である宇佐神宮の正体は何なのか、など。
 この本は、高千穂神楽、宇佐神宮で起きた現代の殺人事件を通して、そうした疑問、特に卑弥呼と岩戸伝説を中心にして答えてくれているという本です。これまでに関裕二さんの著書を中心に古代史の本をけっこう読みましたが、古代史にの謎について一番わかりやすく書かれているように思います。あくまで小説ですので、史実としてどうなのかというものではありませんが、私には腑に落ちることがたくさんありました。特に、天岩戸伝説、宇佐神宮の正体については。次は出雲伝説について書いてもらえたらと思います。



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 神社巡りを始めたころから神社の名前の由来については興味があるとともに、不思議に思っていました。土地の名前、祀られている神の名前からきているものは分かるような気がしますが、愛宕神社や春日神社、素戔嗚尊が主祭神でなぜ八坂神社なのかとか。八幡神社の八幡、稲荷神社の稲荷とは、元々どのような意味があたのか。本屋さんでこの本を見かけ、即買いしました。そして期待通りに、そうした疑問に答えてくれたし、名前だけでなく歴史も含めてとても勉強になるほんでした。また、私が参拝した神社がいくつも取り上げられており、親しみも感じました。神社に興味のある方、必読です。



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 元アイドルタレント、唯一のレギュラー番組「ちょびっ旅」を担当する「おかえり」こと丘えりか。そんな番組が、ちょっとした失敗でスポンサーの怒りをかい、打ち切りとなってしまう。途方に暮れる中、偶然から角館への旅を依頼され、これをきっかけに依頼主の代わりに旅をする「旅屋」なるものを始めることに。旅屋を始めるきっかけになったALSを患ってしまった娘とその母親の依頼、角館へ桜を見に行くことを依頼される旅、感動的でした。そして、旅屋が順調になってきた頃、「ちょびっ旅」の復活をかけた、スポンサー企業の会長からの依頼旅。この旅は、丘えりがただ一人所属するタレント事務所の社長、萬鉄壁の過去に大きな関わりを持ったものでもありました。その結末は、会長の依頼は果たせたのか、「ちょびっつ旅」の復活はなるのか。旅にかかわる人間模様、旅先で出会う人たちのそれぞれの人生、みんな一生懸命生きている。そんな感じ、旅好き原田マハさんの経験を生かした感動物語です。




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 東野圭吾さん、「マスカレード・ホテル」に続くホテルマン、いやホテルウーマンと刑事のミステリーです。ホテルに宿泊する人たちは仮面を被っている。ホテルマンはそうした仮面を被ったお客様に寄り添い職務を遂行している。そうした中、ホテルにはあまり関係ない大学教授が殺される。容疑者として大学の教授が浮かび上がるが、そのアリバイにホテルが絡んでくる。完璧なアリバイであったはずなのに、チョットしたズレが生じ、そこからひもが解かれていく。そこにはふたつの殺人事件が関連していて、刑事のひらめきとホテルマンの、いやホテルウーマンの鋭い洞察力が事件を解決に導いていく。事件の真実はどういうものなのか、犯人は誰なのか、ワクワクドキドキしながら読み進めていくが、結末は意外なところにありました。ホテルの宿泊者は仮面を被ってホテルに泊まるが、ホテルの従業員もある意味覆面を被っている。刑事も仮面、あるいは覆面を被っている。こう考えると、人間みな仮面を被って生きているのでないかと思えてきます。




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 数理物理学、渋滞学を専門とする東大教授が、高校2年生に対し、数学の面白さを教える4日間の授業の内容を本にまとめたものです。数学とは何なのかが分かりやすく説明されています。私は、自然現象を説明する手段であり、未来を予測する道具、そんなイメージを持ちました。特にSin(サイン)波や微分の説明は簡略化され、本質をズバッと言い当てているようで納得がいきました。また、この人が切り開いたという渋滞学はとても面白かったです。渋滞学というから高速道路の渋滞について説明するのかと思ったら、東京マラソンのスタートで3万人をいかに短時間でスタートさせるかという問題、これをを数学的に解いていくもの。最後には無駄についての考察、無駄の反対語は?世の中に無駄はない、などの考え方が述べられています。高校英向けに書かれてはいますが、何十年も前に高校生だった私でも面白く読むことができました。




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 花山病院の看護婦募集で3人の採用が決定する。そのうちの一人が雨宮リカ。婦長は雨宮の採用に反対したが、3か月間の試用期間を設けることで仮採用となった。この雨宮リカ婦長の直感通りが普通ではなっかた、というより異常である。脳梗塞で倒れた叔父である院長に代わって病院の指揮を執ることになっていた大矢副院長。その周辺で事件が頻発していく。すべてが雨宮リカがかかわっているように思えるが。その証拠がない。手術におけるオペミス。院長の死、婦長の階段からの落下事故などなどなど。そして最後はとんでもないことになっていく、さすがにおぞましく早く読み終えたいと思ってしまいました。いわゆるサスペンスホラーですが、私はちょっと苦手かなと。この“リカ”に対して、リカシリーズがあるそうですので、興味ある方はあわせてご一読を。私は遠慮しておこうと思います。



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 愛知県警で交通課の警察官を務める和泉康正に、東京で仕事をしている妹、園子から疲れた声で明日帰るとの電話がはいる。しかし2,3日たっても妹は帰らず音信不通に。康正は心配になり妹のアパートを尋ねると、妹は自殺のように思える状態で死んでいた。康正は、状況から自殺に見せかけて殺されたと考え、敢えて自殺であるかのように手を加えてから警察に通報する。警察に自殺と思ってもらわないと復讐ができないからである。そして復讐のための犯人捜しが始まる。しかし、敏腕刑事の加賀恭一郎は自殺に疑念を抱いて捜査を進めていく。一方園子は、恋人を信頼していた友達に取られてしまうという、いわゆる三角関係に悩み、兄に電話を掛けてきたことが明かされるのだが、果たして何があったのか。康正は、徐々に犯人は園子の元恋人か、信頼していた友人のどちらかであるとことに行きつく。その過程での加賀刑事との駆け引きが面白い、容疑者二人とのやりとりもスリリングである。単なる三角関係のもつれでどうして殺人事件になってしまうのかとの疑問を持ちながら、最後の最後までどちらが殺したのかわからない、本当は自殺だったのでは、とも思えてくる。自殺に見せかけたトリックをどう見破るのか、犯人はどちらなのか、後半の4人のやり取りは圧巻である。



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 ミラバケッソと訳のわからない言葉のコマーシャル、クラレ、旧倉敷レーヨンのコマーシャルです。この会社の戦前戦後、激動の時代に社長を務めた大原總一郎の物語です。總一郎の父親、孫三郎が、戦前に倉敷レーヨン、倉敷絹織など会社を大きくし、總一郎が引き継いだ。父親と対立していたものの病床の父親の情に負けて後を継ぐことに。そして、日本独自の合成繊維、ビニロンの開発に注力する。しかし、満州事変、太平洋戦争と激動の時代になり、会社は解体されてしまう。戦後、残った会社で再びビニロン開発に情熱を傾けていく。總一郎は、戦中徴兵されるが病気で除隊、工場を軍事工場として稼働させるが、空襲で従業員を失ってしまう。このうしろめたさ、贖罪の念が總一郎を突き動かしていく。終戦間もなく、アメリカで開発された合成繊維ナイロンが普及し、他社がビニロンから撤退していく中で、国産材料によるビニロンの開発にこだわっていく、そして国から途方もない金額の融資を引き出し、量産化を執念で成し遂げる。その後、ビニロンプラントを中国へ輸出することをもくろむ。日中国交回復前、米ソ冷戦時代、台湾の問題もあり、実現不可能と思われた。しかし、總一郎は様々な困難を乗り越え達成してしまう。總一郎の思い、思想、人間性などにより、不可能を可能にしてしまった。こうした總一郎の思想は、現在のクラレにも引き継がれているとのこと。人がやらないことをやれ、企業には社会的責任がある。そして、従業員は幸せになるために働いている。働いてけがをしたり病気になって不幸になるようなことがあってはならない、だから安全は何より最優先されるべきだ。分かりやすい考えである。大原總一郎という人物、クラレという会社を見直しました。


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 独身獣医師、伯朗の弟明人が仕事先のアメリカから帰国した。ところが、明人の妻と名乗る楓が、伯郎を尋ねてきて、明人が行方不明になっていると告げる。ここから、複雑な伯郎の家族構成を背景に謎解きの物語がはじまる。明人の帰国理由は、明人の父、伯郎にとっては義父の康治が危篤状態のため相続に関する家族会議が行われるため。しかし、誰も明人が結婚したとは聞いていない、楓とは何者なのか。明人の実の父一清は画家で、伯朗が小学生のころに脳腫瘍でなくなっている。康治は一清の主治医でもあった。兄弟二人の母親禎子は、16年前不自然な死を遂げている。話が進んでいく中で、サバン症候群という病気が出てくる。絵画や音楽、記憶力などある分野において特異な能力を発する人のことである。最後の方で「ウラムの螺旋」という言葉も出てくる。私は、サバン症候群は知っていましたが、ウラムの螺旋は知りませんでした。この二つの言葉がある意味でキーワードです。最後の最後に、どんでん返しと種明かしがありますが、やはり想像を超えるものでした。題名の「危険なビーナス」はもちろん楓のことではありますが、その正体も驚きです。後味すっきりな感じでした。



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 かくりょの宿飯シリーズ」というより、私には「あやかしお宿」シリーズのほうがしっくりくるのですが、その第10巻、完結篇です。妖都の地下牢に閉じ込められてる天神屋の大旦那を救出に向かう婚約者の津場木葵と天神屋の従業員たち。隠世を治める八つの実力者たちで構成される八葉の会議、八葉夜行会で天神屋の大旦那が追放されてしまうという危機的状態。なぜ天神屋の大旦那は陥れられてしまったのか、その黒幕は何者かなどが明らかになります。そして、これまでの九巻で登場したあやかしたちがが総動員され、すったもんだの末に結局はハッピーエンドに終わるのですが、あやかし界のドタバタ劇が、人間界のドタバタ劇と一味違った形で展開されて心地よく感じられます。あやかしという恐ろしい世界なのですが、内容はファンタジーに近いものがあります。これで終わってしまうのがもったいないくらいです。あとがきによれば、その後のエピソードについて本にしてお届けするということなので楽しみに待ちたいと思います。物語は一応完結しましたが、主人公の津場木葵の祖父である津場木史郎が何者であったのかが私には分からずじまいで、モヤモヤ感が少し残りました。



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 1993年の作品で、学園物から脱皮を図るとともに、トリックの意外性を追求した力作なのだそうです。題名である宿命、何が宿命なのかを考えながら読み進めました。主人公である和倉勇作と小学校から高校まで同級生の瓜生晃彦はお互いを意識し反発する。勇作は医者志望も父と同じ刑事に、晃彦は父親が社長の会社を継がずに医師になっていた。そして晃彦の父親の会社で起きた殺人事件で再開する。すると晃彦の妻は勇作の元恋人であった。これも宿命なのか。そしてこの殺人事件の犯人をめぐっての瓜生家の捜査、果たして犯人は誰なのか。一方で、晃彦は殺人事件の捜査とともに、子供のころから抱いていた瓜生家に潜む何かを追い求めていく。殺人事件とともに、何が宿命なのかが解き明かされていく。確かに犯人は誰なのか、という殺人事件のトリックだけにとどまらない別のタイプの意外性が仕組まれていました。東野さんは、最後の一行にその意外性を込めたのだそうです。




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 中年キャリアウーマン、おそらくマハさん世代を主人公に、旅を通じて元気と勇気を取り戻すことをテーマとした短編集です。第一話は本の題名にもなっている「さいはての彼女」。通販で起業し六本木ヒルズに会社を構える女社長鈴木涼香、沖縄へ贅沢旅行に向かう予定が、寿退社する秘書のたくらみで北海道のさいはての地北海道に行くことになってしまう。そこで出会った女性ながらにハーレーを乗りこなし、カスタムビルダーでもあるナギ。耳が聞こえないにもかかわらず、明るく元気に生きている彼女。都会では経験できない経験する。第二話は、旅仲間の友人が、母親の病で一緒に旅に行けなくなってしまう。その友人にではなく、友人の母に手紙を書くことに、心温まる友人愛、親娘愛の話。第三話は、優秀な部下をパワハラまがいの言動で出社拒否に追い込んでしまう女性キャリアウーマン、自らも休暇を取って冬の北海道へ。そこでタンチョウを保護する人たちと触れ合うことで自らを見つめ直す。そして最後の第4話、これは第一話で登場したハーレーを乗りこなし、カスタムビルダーでもあるナギの物語。なぜ女性ながらにハーレーにのり、カスタムビルダーになったのか、しかも耳が聞こえないのに。突然ナギを訪ねてきた広告代理店の男性、何しに訪れたのか。ナギは旅に出た後で会うことができないが、ナギの母親、ナギが務めるショップのオーナーとのやり取りが心地よい。そして最後にどんでん返しがある。4つの話すべて心に残るいい話であるが、私には第4話が心に響きました。原田マハさんの本は読後が心地がよく、元気が出るような気がします。


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 漫才師、又吉直樹の2つめの作品です。出版されたのは2作めですが、実は書き始めは、芥川賞を受賞した1作の「花火」よりも先なのだそうです。
 演劇の脚本を書いている一風変わった永田とその恋人沙希のこれもちょっと変わった付き合いを通して、主人公である永田の人間の内面性を描いた作品と言えるような気がします。演劇や芸人とは、我々一般人からすると、その生活ぶり、考え方、行動は普通ではないような気がします。ただし、何が普通なのかという問題はあるとかは思いますが。とりあえず、私を普通とした場合には、普通ではないといえます。その普通の人から見れば変わっているところを、当人の内面から表現しており、その異常な言動や行動の理由が何となく理解できるような気がしてきます。そして読み進むうちに、自分でもどうしようもできない永田に対し徐々に同情のような感情がわいてきます。最後には二人の関係が切なく感じてしまいました。
 ところで、主人公の永田は、ところどころ著者の又吉と重なるところがあるような気がします。もしかしたら、この本に出てくるようなことを経験してきているのではないだろうか、と思いました。



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 東野さん初期の作品、デビュー作「放課後」から数えて4作め、1987年の刊行です。この作品ではいろいろな試みが実行されているのだそうです。
 津村光平は、大学を卒業後、そのまま大学近くの寂れた学生街の「青木」というビリヤードと喫茶店がある店でアルバイトをして暮らしている。その「青木」の従業員である松木が殺された。光平には付き合い始めて間もない年上の恋人、広美がいたが、自宅マンションのエレベータで “密室” 的に殺されてしまう。広美は、同級生の純子とスナック「モルグ」を協同経営していた。松木の殺害と広美の殺害は関連しているのか。光平は、犯人を捜し始めるが、松木につても広美についても知らないことが多いことに気付く。そうしたところに広美の妹、悦子が現れ、二人で広美の秘密、犯人捜しをすることに。そして第三の殺人が起こる。複雑怪奇な殺人事件、少しづつ謎が解き明かされていく。“密室”的殺人のからくり、松木広美の殺人との関連。いったん事件は解決されたかように思える。しかし、第三の殺人との関連でどんでん返し、最初は明らかにされなかった、真実が明らかになっていく。東野さんが試みたものとは、こうしたトリックの深さだったのではないだろうかとかと思えてくる。実に巧妙に仕組まれた仕掛けは見事です。



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 ニューヨーク近代美術館(MOMA)が所蔵するアンリ・ルソーの名作「夢」、これとほぼ同じ絵「夢を見た」を所有するスイス在住の伝説のコレクター、バイラ―が、その絵の鑑定を二人の人物に依頼する。一人はMOMAのキュレーター、ティム・ブラウン、上司であるトムブラウンとは一文字違いのため、タイプミスで招集されたのではないかと思いながら上司に成りすましてスイスへ向かう。もう一人は、パリ在住の日本人女性でルソー研究において多くの論文を発表している早川織絵。鑑定とは、ある物語を読み、「夢を見た」が贋作が真作かの鑑定を行い、バイラ―に認められたほうが「夢を見た」を譲り受けられるというもの。
 「夢を見た」をめぐる美術界の裏事情、バイラ―とは何者なのか、二人の鑑定はどうなるのか、「夢を見た」の行く末は、など、どきどきで美術史におけるミステリーと言ってもよいかと思います。そこに、ルソーの生き様や美術のうんちくも加わり、読み応え盛り沢山でした。面白かったです。



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 古代における神社とはどんなものだったのか、それは古代人の神の信仰がどうであったかということと等しいような気がします。そして、現在だけでなく近代とも大きく違ったものであったようです。本書の中には、古代、すなわち古墳時代ころからその信仰が認められる、大神神社、伊勢神宮、宗像大社、住吉神社、石神神宮、鹿島・香取神宮を中心に、人々の信仰の様子などが述べられ、神社の歴史ではありますが、古代史についてが、古事記・日本書紀などの古文書を引用して述べられています。私にとっては、奈良の大神神社(おおみわじんじゃ)はなぜ大神と書いて「おおみわ」と読むのか、そしてなぜ出雲系の神、オオモノヌシノカミが祭られているのか。伊勢神宮はなぜ都のあった奈良ではなく、伊勢にあるのか。鹿島・香取神宮とはどういう神社だったのかなどが興味深く読みました。そして、石上神社の歴史的な役割につては新たな知識として面白かったです。こうして古代の神社について考えると、現在あまたある神社について、改めてその歴史について考えてみたくなりました。



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 池井戸潤さんの本は久しぶりです。「民王」と書いて“たみおう”と読みます。物語は、幹事長から総理大臣になった武藤泰山、そしてその息子の大学生、翔、親子の意識が入れ替わってしまう。総理大臣の体に入った大学生の息子が国会答弁を行い、息子の体に入ってしまった総理大臣の親が、就職面接に向かう。ある種の喜劇である。ところが、入れ替わったのは、総理大臣親子だけではなく、野党の党首も入れまわっていた。どうも同じ歯医者で親知らずを抜いたことからこの現象が起きているらしいことが分かる。この奇妙な現象の背後には、薬業界のに絡んだたくらみがあることが分かってくる。ストーリーはサスペンスであり喜劇であり社会風刺的一面もありドキドキしながらも面白おかしく読むことができました。




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 この東野さんの作品も一種のチャレンジサスペンスのように感じました。主人公は「私」とその昔の恋人中野沙也加の二人、「私」が過去を語る形で物語が始まります。結局私の名前は出てきませんでした。そして主要な登場人物はほぼこの二人のみ、登場人物は記憶や想像で登場してくる人たちばかり、しかも場面はほとんどリゾート地に建てられた不思議な別荘だけ。でも決して退屈させないストーリーとなっています。
 二人には似たような境遇があったことで引かれていった。そしていったん分かれたが、同窓会で再開。沙也加には小さいころの記憶がなく、亡くなった父親が残した地図と真鍮のカギに何か隠されているのではと「私」を誘ってその地図の場所へと向かう。そこには不思議な家が建っていて、家の中を捜索しながら徐々に不思議な家の謎と沙也加の過去が明らかになっていく。そこには驚くべき真実が隠されていました。読み終えて本の題名がなんで「僕が」になっているのかが少し気になりました。



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 原田マハさんのデビュー作という帯をみて即購入、期待にたがわぬ内容でした。沖縄を舞台にした恋愛小説ではありますが、恋愛ミステリーとも言えると思います。
リゾート開発の話が進む沖縄の離島、与那喜島、そこで小さな雑貨屋を営み黒いカフーという名前の犬とともに暮らしている友寄明青(ともよせあきお)。『カフー』とは、沖縄言葉で『幸せ』という意味なのだそうです。リゾート開発の推進役は明青の同級生。リゾート開発の事例を見に行くということで、島民一行で北陸の孤島を訪問、そこにある神社を参拝した際、明青は絵馬に、『嫁に来ないか』と書いた。何も期待せずに書いたものではあったが、しばらくして「幸」と名乗る女性から手紙が届く。手紙には『お嫁にしてください、近々訪問します。』と書かれていた。期待とまさかと思う中、ほんとに幸と名乗る女性が現れる。そして、明青に住み着いてしまう。幸という女性は何者なのか、リゾート開発の行方は。沖縄を舞台に繰り広げられる切ない、そして心温まる感動恋愛小説でした。なお、この小説は、2005年に公募された、第1回日本ラブストーリー大賞で、応募作品693の中から大賞に選ばれた作品だそうです。



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 遺産相続をめぐる人間模様の物語。私も数年前相続を経験しました。私の場合はわずかな土地だけでもめ事もなく済みましたが、世の中には泥沼の相続争いがあるようです。
法学部に在籍する女子大生真壁りんの祖父真壁麟太郎が亡くなった。麟太郎には男女二人づつ4人の子供があり、リンは末っ子の次男渓二郎の一人娘。麟太郎がなくなる直前まで、リンの母が介護にあたっていた、しかし、夫である渓二郎は、行方不明状態にある。麟太郎はひとり暮らしではあったが、植田大介という若者が居候していた。この植田を交えて、麟太郎の遺産である土地の相続をめぐって家族会議が始まる。人の欲や醜さも垣間見え、人間模様が面白い。修羅場もあるが、人間味もあり、相続にも理解が深まる一冊である。




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 物語のほとんどが里沢スキー場でのお話しです。同棲相手がいながら合コンで出会った女性を誘ってスノボーへ、そこで何と同棲相手と鉢合わせ、しかも女性同士が高校の同級生、という修羅場から始まり、会社の友人同士のスノボー旅行、どっきりスノボーやら、ゲレコン(ゲレンデコンパ)、家族スキーなど、男女関係のもつれあいがスキー場を舞台にスリリングに描かれています。また、登場人物のそれぞれの個性が分かりやすく、この後どうなるのだろう、どうするんだろうと思わせてくれて飽きませんでした。




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 自分にコンプレックスを持ち、作家である父親に反感を持っていた29歳の葉太、父親の死を機会にミューヨーク旅行へ。ところが初日にリュックごとパスポート、財布、カードなどを盗まれてしまい、所持金は12ドル。変なこだわりを持っている葉太は、すぐには領事館へは行かず極貧生活をおくる。そして精神的にも肉体的にも極限状態に落ちってしまう。そうした状況での葉太の心の葛藤がつづられている。私には、葉太の考え方、気持ちが分かるような分からないような、少なくとも共鳴はできなかったが、きっと共鳴できる人もいるのだろう。