2018 表紙と感想


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感  想



 久し振りの逆説の日本史です。16巻目は江戸時代の名君編。徳川光圀、保科正之、上杉鷹山、池田光正、そして日本、江戸時代独特の町民文化が語られている。逆説の日本史の根底には、歴史学者、歴史学会に対する、@日本史の呪術的側面の無視ないし軽視、A滑稽ともいうべき資料至上主義、B権威主義、という痛切な批判が込められている。たぶん学問を職業にする人たちは保守的になってしまうのでしょう。内容は、江戸時代と言いながら、楠木正成の時代までさかのぼったり、非常に幅広く述べられていて面白いです。江戸文化についても、連歌から和歌、俳句、歌舞伎、講談などの歴史が語られ面白くとても読むことができました。









 東京都の山奥、御嶽(みたけ)神社でのチョット昔の物語を、神社で育った主人公が子供のころおばさんから聞くという形で物語が語られる。神社という神聖な場所での不思議な話や、ちょっと怖い話もあり、しみじみ読めました。この主人公とは、著者の浅田次郎さんで、実際に浅田次郎さんの母親の実家は御嶽神社だそうです。そして、ここに語られる物語も脚色はあるものの実際に子供のころに聞いた話なのだそうです。霊能力とか、神様が見えるとかいう話がありますが、実際にあるのかもしれません。











 私ももうすぐ定年、本屋で目に留まり思わず購入してしまいました。定年後の準備のためだけでなく、子育てからマイホーム購入、貯蓄やマネープラン、そして相続やお墓のことまで実に幅広くたくさんのことが書かれていてます。色々な制度があることを知り、あまり活用されていないのではとも思いました。私にとっては、退職金のもらい方や運用の仕方、そして年金制度仕組みや受け取り方についてなどが参考になりました。











 高校野球、9回裏2アウト満塁から降り逃げで負ける場面から物語は始まる。並行して企業の爆弾事件が起こる。どうかかわりあうのかと思いながら読み進めると、サヨナラ負けしたキャッチャーが殺される。続いてピッチャーまでも。全く関係ないような事件が徐々につながっていき、謎が解き明かされていく。予想を超えたストーリー、そして人間模様。単なるミステリーにとどまらず、小説としての味わい深さも兼ね備えた作品である。やはり東野圭吾は面白い。










 横須賀港を巨大ザリガニの大群が襲う。小中学生男子13人と女子高生1人が逃げ遅れ、潜水艦の二人の若い乗組員とともに潜水艦に逃げ込み取り残されてしまう。逃げ込む際に、潜水艦の艦長が犠牲になってしまう。巨大ザリガニの撃退と、潜水艦の中における若い潜水艦乗組員と子供たちのサバイバルが並行して進む。いずれも人間描写がその特徴を捉えており、実に面白い。粗野でありながら人間味のある二人の自衛官と、それぞれの家庭環境で育っている子供たちのやり取りは絶妙です。










 歴史捜査、正に警察が行う事件捜査のように証拠を集め歴史を紐解いていく、そんな内容でした。本能寺の変は、信長が光秀に命じて家康を討とうとした。しかし光秀は、ちゃんとした動機があって信長に謀反、その裏には様々な策謀、密約、裏のかきあいがあり、光秀、細川藤孝、秀吉、そして家康。結局秀吉の政治力により、犯人を光秀ひとりに押し付けてしまう。本能寺の変の真実が、そして戦国時代の武将の様々な生きざまが分かったような気がしました。面白かったです。











 明智憲三郎さんの本能寺の変を読んで、以前読んだ本能寺の変の本を再読することにしました。前回読んだ時の感想に、「よくわかりませんでした。」とあり、今回は理解が進むのではと再読したのですが、あまり進みませんでした。それは、この本がテーマにより異なる人が執筆しており、一貫性がなく、また断定するところも少なく、さらに第三者的に書かれているため分かりにくくなっているのではと思います。二冊での大きな違いは、信長が明智光秀に命じて家康を殺そうとしていたかどうかの認識でした。











 久々の宮部さんの小説です。とは言っても作品的には古いもののようです。若い女性3人が次々に不可解な自殺で死んでゆく。3人目の女性は突然タクシーに飛び込んだ。そのタクシーの運転者の家族がいつの間にか事件としての真相に近づいていく。様々なドラマが組み込まれ予想だにしない展開となり、読者を飽きさせない。魔術はささやく、その意味が最後の最後に分かる。










 夏の高校野球県予選、決勝戦でサヨナラ負けし、いったんはピリオドを打った。しかし、優勝チームが不祥事を起こし出場を辞退、思わぬ形で甲子園に出られることになる。天国から地獄、その裏側には様々な気持ちの葛藤が起きている。負けたのに出られる、勝ったのに出られない。気持ちをどう整えるのか、どう切り替えるのか。選手だけではない、家族、監督、OB、そうした様々なドラマがつづられている。後味さわやかな高校球児と周辺の物語でした。








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 北海道と東京で暮らす二人の女子大生、二人は全く同じ顔をしている。別々に育ち、親の繋がりも全くない。双子の姉妹なのか。それぞれが生きてきた中で、全く親に似ていないなど、何となく疑問を感じる些細な出来ことがなかったわけではない。そして双方の母親が亡くなってしまい、それぞれが出生の秘密を探り始める。二人の物語が交互に展開され、徐々に明かされていく出生の秘密。その背景には想像を超えたいきさつが隠されていた。医学界のタブーにも触れた作品である。







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 テレビドラマにもなった「まほろ駅前多田便利軒」のシリーズ3作めです。この物語の登場人物には、普通の人はほとんどいません。便利屋の多田をはじめ、独特の個性を持った相棒の仰天、そして様々な仕事を持ち込むお客や、周りの仲間たち。今回は、4歳の女の子を預かることがストーリーの中心ではありますが、そうした個性溢れる登場人物が、思わず笑ってしまいそうな喜劇のような事件を引き起こしていく。そんな中で多田と仰天の過去が明らかになっていくというシリアスさも含んでいる。面白く読むことができました。







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 東大卒、エリート銀行員として順調に務めてきたが、銀行の合併に伴う人員削減、いわゆるリストラの中で、レストランチェーン店を営む会社の再建人として転職する。与えられたポストは社長に次ぐナンバー2、いざ再建に取り組み始めるが予想以上に経営状況が悪い、気づいた社長は逃げ出してしまい、図らずも社長として再建に立ち向かうことになる。銀行との駆け引き、投資家の思惑、そして同業者とのやり取り、江上さんの実体験を生かした企業再建ストーリーが実に面白い。








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 ラプラスとは確か数学か物理の学者だったような気がする。どんな内容なのか、何がラプラスなのかと思いながら読み始めました。いきなり竜巻で母親を無くすという事故。続いて映画監督の娘が硫化水素自殺を図り、母親も亡くなり、弟が意識不明、しかし奇跡的に回復する。この映画監督と息子がこの物語のカギを握る。そして温泉にて2件の硫化水素中毒による死亡事故が連続発生、事故ではなく殺人ではないかとの疑いもかけられる。この事件の読み解きが大学教授と刑事によって進められていく。何がラプラスかも後半に分かってくる。実に見事に組まれたストーリー、さすが東野圭吾、といった内容でした。面白かったです。








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 教科書では教えてくれない明治維新、そんな内容でした。歴史を後から見る我々は結果が分かっていますが、当時を生きていた人たちにとってはどうなるかわからない未来であったはずです。明治維新の激変、その変化の本当のすさまじさは当時生きていた人でないとわからないのではないでしょうか。そんなどさくさについて分かりやすく書かれていると感じました。それにしても明治維新は西郷に始まり西郷に終わった、と改めて感じました。明治維新は歴史的には成功のように見えますが、実際にはどうだったのでしょうか。








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 騙されました。そして読み返そうと思いました。帯に「絶対、ぜったいだまされて、読み返します!」とあります。カバーをつけていたため、この帯の先入観なく読んだのですが、まんまと騙されました。前半から中盤にかけて、女性の心理描写、犯罪者の心理描写がすごいなと思いながら、シチュエーション等には何となく違和感を感じ、普通はそんなことないよな、と思うようなところがあったのですが、そう思った時点で既に騙されていたのでした。後半の種明かし、そしてどんでん返し、前半の違和感が解消された感じはありますが、、翻弄された感覚のほうが強かったです。








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 小学生から大学、就職するまでの自叙伝的エッセイ。1958年生まれ、私と同じ年の生まれでが、東野さんは早生まれのため私より学年は1年上ですが、ほぼ同世代。一浪で工学部、体育系の部活と私との共通点が多く、とても親近感を覚えました。小学生時代のウルトラQからウルトラマン、そしてウルトラセブンへ、その間にあまり知られていないキャプテンウルトラなるものがあった話。ウルトラマンに出てきた宇宙墓場に帰りたい怪獣シーボーズ、ピグモンとガラモンが同じだとか、他にも思わずうなづいてしまう話がたくさんありました。工学部出身でで売れっ子作家になった東野さんてどんな人なのだろうと思っていたのですが、この本を読んである程度分かったような気がしました。でもハチャメチャぶりは何枚も上手でした。







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 作家希望の小学校の同級生が、大人になってから殺人事件を起こす。中学校ではいじめの問題があり、別々の高校へ進む。そして一人は作家に、一人は教師に。二人に関わりあう人の証言を織り込みながらストーリーが進み、一旦落着するように思えるが、まだページが残っている。やっぱりどんでん返しがありました。事件を担当した刑事加賀恭一郎は、元教師という異色の刑事であり、被疑者の同僚でもあった。その加賀刑事の洞察力によって真実が暴かれていく。最後の最後になって「悪意」の意味が分かります。







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 江上さん得意の企業復興物語。本文中は「ヤマト航空」であるが、言わずもがな日本航空(JAL)をモデルとしている。2010年1月19日、日本航空(JAL)は経営破綻から会社更生法の適用の申請を行う。実質的な倒産である。国に援助を受け、立て直しが始まるが、1年後に東北大震災が発生、仙台空港は津波に飲み込まれてしまう。会社復興と津波に飲み込まれた仙台空港での3日間のJALスタッフの実話を元にした活動、読んでいて思わず涙が出てきてしまう。生きる元気をもらえる内容でした。







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 眠りの森、それはバレエ「眠りの森の美女」を踊る名門バレエ団のダンサー達の物語。バレエ団の事務所に見知らぬ男が侵入、居合わせたバレリーナともみ合い、男は頭を殴られ死亡してしまう。正当防衛を主張する団員達。やがてバレエ団の中で第2の殺人事件が発生する。犯人は誰か、動機は何なのか、刑事加賀恭一郎が徐々に解き明かしていく。入り組んだ人間関係、バレエダンサーの過酷さ、心理描写にひきつけられる。眠れる森の美女は誰か、キスをして目を覚まさせるのは誰なのか。








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 チョット雰囲気の違った東野作品。脳死と臓器提供という重いテーマを描いた作品です。小学校へ入る前の可愛い娘がプールで溺れ、突然昏睡状態に。医師から脳死状態を告げられ、臓器提供の意思を問われる両親、果たして自分がそうした状況に置かれたらどうするだろうか?実際にそういう状況にならないとわからないというのが本音である。そうした状況に置かれた家族、親類縁者とのかかわり等、一つの答えを表現しているような気がします。科学とミステリーを融合させた東野ワールドとはチョット違った重いテーマの一冊でした。







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 心残りや悔いを残して亡くなると成仏できず、「死者」として心残りを晴らすまでこの世での生活が続く。この期間のことをロスタイムという。しかし、成仏するとこのロスタイムの記憶はすべて消え失せてしまう。「死者」の心残りを晴らす手伝いをするのが死神のお仕事。この仕事をクラスメイトの美人女子高生から突然誘われ、時給300円で引き受けることに。そして「死者」の思いを晴らす作業が始まる。死者の切ない思い、美人女子高生は何者なのか。家族愛、人間愛など、考えさせられる感動の物語でした。







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 マグダラのマリアとは、私の記憶では人間イエス・キリストの妻ではなかったか、イエスの子供を身ごもり、その血統が現代にまで脈々とつながれている・・。よく見たらこの本の題名は「まぐだら屋のマリア」。ひなびた「尽果(つきはて)」という田舎町で小さな食堂を一人で切り盛りするマリア。生きる気力を失った人がたどり着く町「尽果」、板前見習いだった紫紋もそうした一人だが、マリアに会い救われる。そのマリアを悪魔と言う食堂のオーナーである老女将。なぜ悪魔と呼ばれているのか、マリア自身にも壮絶な過去があった。それぞれのつらい経験が徐々に明らかになっていく。生きることへの勇気を与えてくれる一冊でした。







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 8ヶ月ぶりのかくりょの宿飯シリーズ、前六巻は天神屋の大旦那が妖都に出向き行方知れずになってしまったところで終わっており、これからが気になっていたところ。第七巻では、かくりょの歴史やあやかしたちの過去が少しづつ明らかにされ、隠世、現所、常世などの世界の関係、あやかしどうしの繋がりなど、読み始めのころは何なんだ、と思っていたいろいろなことが分かるようになります。まだいくつかの謎がありますが、徐々に明らかになるでしょう。それにしても、葵のつくる料理描写と物語への関与が絶妙です。







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 あやかしお宿シリーズ7巻、8巻、連読です。今回は、隠世を構成する八葉のうち、北に位置する氷里城への旅。前巻に続き、少しづつ過去の歴史や搭乗人物の生い立ちが明かされ、天神屋の大旦那の正体も少しづつ明かされていきます。ストーリー的にはこれからどうなるのか楽しみです。ところで、このかくりょの宿飯シリーズがTVアニメ化され、既に放映中とのこと、ネットで調べたら既に4月から放映されていました。アマゾンで検索しネットで見てみました。登場人物のキャラ的には、チョット漫画チックになりすぎている様な気がしますが、イメージが視覚化されて、いいのか悪いのか何とも。








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 鉄は砂鉄を溶かしてつくった。それが常識と思っていました。ところが、植物の葦の根には「スズ」と呼ばれる褐鉄鋼がまさしく「スズナリ」にできるという。驚きである。しかも、褐鉄鋼は溶かさなくても、700〜800℃で鍛造によって加工が可能。これが弥生時代の製鉄技術。しかしその後大陸からの砂鉄からの製鉄技術が伝わり取って代わられていった。古代における文化は、この鉄を求める文化を中心に成長を遂げていったとして、古代祭祀や伝承、土地の名前や神々の呼称から古代史を読み解いていく。興味深かったです。








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 黒猫の体を借りた死神、クロ。死神の仕事はこの世に未練を残して死んだため、地縛霊となって漂っている魂をあの世へ送り届けること。そんなひとつの地縛霊を意識不明の少女に乗り移すところから物語が始まる。少女の家を住家に地縛霊の未練晴らしを始めるが、ある地縛霊の抱えた未練から、製薬会社で行われていた新薬開発に絡んだ殺人事件が浮き彫りになっていく。死神と地縛霊をとおしてのミステリー小説といった感じ。後半、少女に乗り移した地縛霊の正体が明らかにされ、真犯人が判明する。穢れきった人間は死神にもどうにもできないということが印象的でした。







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 出雲のホテル櫻葉、そこは心霊スポットとしてうわさされているが、実は人間だけでなく幽霊/妖怪/神様が泊まれるホテル。そこに不本意ながら就職することになった女子大生、時町見初(ときまちみそめ)。彼女は幽霊が見える。そこで働くスタッフは人間だけでなく妖怪もいる。なぜ、人間だけでなく幽霊や妖怪もお客様として迎えるのか。そこには陰陽師と妖怪たちの物語があった。1巻では、見初をはじめ、ホテル櫻葉とスタッフのありようが少しずつ明らかにされていく。そして見初が就職して半年、いよいよ神在月、出雲では神様が集うハイシーズンを迎える。








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 出雲にあるホテル櫻葉、時町見初が働き始めて最初の神在月(旧暦10月)がやってくる。様々な神様が訪れ、そこで繰り広げられる神様や人間でありながら幽霊が見える従業員と妖怪たちの物語。ここで働く人間のほとんどが陰陽師の血を引く人たちで、陰陽師にもそれぞれの得意な能力があるとのこと。主人公の見初も本人は知らかったが、徐々に陰陽師の血をひくことが判明し、その能力が顔を見せ始める。おぞましい状況の中に心温まる物語がつづられており、まだまだ続きそうな展開でである。








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 5月に読んだ「「絶体絶命の明治維新」の前編です。勝海舟と西郷隆盛の会談によって実現された「江戸城無血開城」。二人の決断から江戸が火の海とならずに済んだ、という美談として語られる場合が多い。しかし、その裏には上野で行われた、官軍と彰義隊による争いがあったことは知られていない。この争いの結果によっては、徳川復活の可能性もあった。徳川無血開城は、結果でしかない。まさに、勝てば官軍負ければ賊軍の状況である。我々は歴史を後から眺めている。当たり前のように歴史は流れたように感じるが、その当時はどちらに転ぶかわからない混沌の状態であった。それは明治維新に限ったことではありません。








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 有名な「江夏の21球」が収められ、他に7つのスポーツ関連の短編集が収められています。改めて江夏の21球を読んでみると、表からは見えない当事者の心理が実に面白かった。他には、幻となったモスクワオリンピックの陰に隠れたスポーツ選手たちの葛藤。巨人の長嶋監督との縁で巨人軍に入団、最後はバッティングピッチャーになった選手の人生。はからずも甲子園出場となってしまった二流高校野球部とその素人監督の物語。などなど、スポーツ好きの私にはとても面白かったです。








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 日本史の本というより、日本史の舞台となった場所の紀行文といった感じの内容です。ただ、歴史の教科書に乗らないけれどチョット有名な史跡について、伝説や地元の言い伝えなどから紐解いていくので、そんな歴史があったのか、とか、そうなんだ、というような内容がたくさんあります。近場では、吉見百穴について掲載されていましたが、意外と知らないこともありました。個人的には、熊本から宮崎に向かう途中にある幣立神宮に行ってみたくなりました。








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 忍者の里、現在の三重県にあたる伊賀の里での物語。忍者とは、黒装束で手裏剣をなげ、天井裏に忍び込んだりと、ものすごい身体能力をもっているイメージがある。それだけではなく、騙し合いは当たり前、常に裏のかき合いのなかで生きており、精神的にも尋常ではなく常識が全く通じない。そんな忍者ばっかりが住む忍者の里。そんな伊賀の里を信長の次男、信雄が攻めてくる。壮絶な戦いが繰り広げられ、一旦は伊賀の里が勝利するが、その後反撃にあい、結局は信長に滅ぼされてしまう。主人公である「無門」を通して忍者のありようが痛快に描き出された物語です。








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 終電の神様、第2弾。終電から始発までの5つの男と女の人生模様。元ビジネスマンが歌舞伎町のラブホテルの清掃マンとして働くことに、そこでの出会いが何とも。シンガーソングライターを夢見て上京してきた女性、始発前の新宿で路上ライブをすることに。新宿で働く東北大震災の被害者の女性がオカマバーで働こうとするが・・・。終電で乗り過ごした女性が元彼に電話、会話途中でバッテリーオフ、元彼の取った行動が感動的です。デリヘルの女性を送迎する専任ドライバー、デリヘル嬢の悲しい物語に遭遇してしまう。5つの話とも、厳しい人生の中、ほのぼの心温まる内容でした








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 女性二人を殺害した写真家、木原坂雄大のことを本に書こうとして、刑務所で接見しているところから物語が始まります。取材を進めていく中で、殺人の状況や、木原坂の生い立ち、その異常さが明らかになっていきます。そして木原坂には姉がいて、カギを握る存在となっていきます。本当の異常さは何なのか、最後には思いがけない結末となっていくのですが、文末に「 M・Mへ、そしてJ・Iに捧ぐ 」としめくくられています。これは文頭の見出しにもなっているのですが、登場人物にこのイニシャルの人物は登場していません。どういうことか、この本が何だったのかが分かるでしょうか。








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 中学受験を控えた4家族が姫神湖畔の別荘地で勉強合宿を行っている。そこに訪れた女性が殺される。殺された女性は、4家族のうちのひとつ並木俊介の部下であり、遅れてきた並木俊介に対し妻が、「私が殺した」という。そこには並木俊介の知らない奇妙な連帯感があり、結局4家族での隠ぺい工作へと進んでいく。しかし、俊介はどこか違和感を感じ、調査を始めることに。その結果、この4家族の秘密が少しづつ解き明かされていく。そして殺人事件についても真相が明らかになっていく。それは予想を超えたもであり、実に考えさせられるものでした。








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 あやかしお宿シリーズも9冊目、今回で今まで明かされなかった謎がずいぶんと明らかになりました。葵のおじいさんつばき史郎と天神屋の大旦那との関係、葵が大旦那の嫁になることになったいきさつ、大旦那の正体と黄金童子との関係など。とてもすっきりした感じですが、それはシリーズの終わりが近づいていることでもあります。次回が完結編、妖都に捕らわれの身となった大旦那の救出のため妖都に向かいます。どのようなエンディングを迎えるのやら。楽しみでもあり、終わってしまうのが寂しい気もします。








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 中国大陸に理想国家として建国された満州国。日本国内は倹約の一途をたどるなか、理想都市新京に贅をを尽くした広大な映画製作拠点、満州映画協会(通称満映)がある。そこに集う人たちは、それぞれに過去を背負っており、そうした一人である脚本家志望の朝比奈映一が赴任する。満映理事長の過去と現在の闇、ドイツ帰りの女性映画監督の桐谷サカエ、歴史でも有名な731部隊の石井四郎も登場する。満州での映画作りを通して満州国の闇を暴いていくミステリー小説である。








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 ほぼ一年ぶり、関さんの本です。蘇我氏は歴史上極悪人とされていますが、実は由緒正しき血筋で、国のために改革を進めていた、それを乙巳の変で蘇我入鹿を暗殺した中臣鎌足の子、藤原不比等が、日本書紀編さんにあたって、藤原氏の正当化を目的に、蘇我氏を極悪人に仕立て上げ、歴史を捻じ曲げてしまった。というのが本書の趣旨。では蘇我氏はどんな氏族であったのかを解き明かしていく。それは、蘇我氏の正体にとどまらず、日本創生、古代日本における神話の世界と歴史の真実を結び付けていくものでもありました。








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 海外出張の際、羽田空港で購入、飛行機の中で、待合室で飽きずに読める本をということで東野圭吾さんの小説を購入しようと考えたのですが、東野さんの本はこの本1冊のみで選択の余地がありませんでした。どんな推理小説かと、紹介文も読まずに読み始めたのですが、内容はトリノオリンピックの紀行文でした。トリノオリンピックと言えば荒川静香が日本唯一の、しかも金メダルとった大会です。東野圭吾さんのうん蓄と大会の様子が面白おかしく語られ、推理小説のドキドキ感はありませんが、飽きることなく最後まで読むことができました。








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 今年最後の1冊は感動の1冊でした。陰湿ないじめから引きこもりになった、麻生人生。引きずり出したのは家出した母親の残したおばあちゃんからの年賀状。そして、離婚した父親の実家のある蓼科へ向かう。そこには痴呆症のおばあちゃんと孫と名乗る若い女性つぼみがいた。奇妙な3人の生活が始まります。地元の人たちとのほのぼのとした交流。そしておばあちゃんがが続けてきた農薬も使わず、土地を耕しもしない自然農法による米作りが始まる。感動の家族愛、思わず涙ものでした。米つくってみようかな、なんて思わず考えてしまいます。表紙にもなっている東山魁夷の「緑響く」を描いたという奥蓼科の御射鹿池(みしゃがいけ)にも行ってみたくなりました。